東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)57号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案において、「単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数がほぼ等しくなるように」するという構成は、玉葱を袋内に充填した場合に一方的に縦に伸びたり、横に伸びたりして変形することを防ぎ当初の袋としての形状を保持する目的で採用されたことが認められるから、「ほぼ等しい」といいうるためには、単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数の差がこのような変形をすることがない範囲内のものであることを要するというべきである。
ところで、中井博は本件考案の登録出願前である昭和三九年一二月頃から奈良県北葛城郡新庄町北花内四七二所在の工場において、三八〇デニールのポリエチレンモノフイラメント糸を使つて通称一一寸、針数四二〇本の丸編機で二:二の針抜組織により本件証明書に記載された網状かつ筒状の玉葱袋を編成し、五〇枚ずつひもで束ねて出荷したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、中井博が編成した玉葱袋は、単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数がほぼ等しくなるように編成されているかの点を除き、悉く本件考案の構成要件を充足するものであることが明らかである。なお、本件考案は、「太さ四〇〇デニール中心のポリエチレンモノフイラメント糸」を使用することを要旨とするものであるが、前掲甲第二号証によれば、本件実用新案公報の考案の詳細な説明には、本件考案においては、「三八〇―四〇〇デニールのポリエチレンモノフイラメント糸」を「適当な太さ」とする旨の記載があり(第二欄第二五、二六行、第四欄第一九行)、太さ三八〇デニールのものも「太さ四〇〇デニール中心のポリエチレンモノフイラメント糸」に含まれることが認められる。
そこで、中井博が編成した本件証明書に記載された玉葱袋は、単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数がほぼ等しいものであるかについて検討すると、成立に争いのない甲第三号証及び乙第三号証によれば、本件証明書には玉葱袋全体を撮影した縮小写真、次いで末葉に、袋の一部を拡げて編目を明確にして撮影した拡大写真とが添付され(原告は、本件証明書の末葉に添付されたものは、原寸図面であるとする趣旨の主張をしているが((事実摘示第二4(一)(2)参照))、採用できない。すなわち、添付写真を含めた本件証明書の写であり、弁論の全趣旨によれば、その原本は被告山本樹脂工業株式会社が所持していることが認められる前掲甲第三号証、成立に争いのない甲第一号証、乙第三号証に照らし、本件証明書の末葉に添付されたものが上記認定のとおりの拡大写真であることは明らかである。また、原告は、本件訴訟の当初、右添付写真を原寸写真であると主張していた被告らが、後に、これを拡大写真であると訂正して主張したことは禁反言の原則に反する旨主張するが((事実摘示前同箇所参照))、右主張の訂正は、八回に亘る本件準備手続期日のうち第三、四回準備手続期日においてした当初の主張を第五回準備手続期日において訂正したもので、訂正の前後の時間的間隔も短く、また、主張内容をみても、それは所詮は証拠の評価に関することがらであつて、裁判所が当事者の主張がなくとも自由に判断を加えうる分野に属するものであり、更に当該訂正によつて原告の訴訟活動に著しい支障を与えたものとは認められず、したがつて、これを許容することが訴訟手続における公正を害する程度に達したものとはとうてい考えられないから、原告の前記主張は理由がないというべきである。)、右拡大写真でみる限りにおいては、一インチ×一インチの単位面積内における本数は縦向き糸一二本、横向き糸一一本であると認められる(なお、右本数の数え方は、本件考案の要旨に徴し、縦向き糸については、編目の縦向きループ列の両側に位置する縦方向の糸列を各一本と数え、横向き糸については、ループを形成しない単糸状の横方向の糸列を各一本と数える。)。
そして、二〇kg入玉葱袋は、メリヤス編成の場合、通常編み上がつた編地の幅は広くとも約四一cmに仕上げるものであることは当事者間に争いがなく、これを二:二の針抜組織で針数四二〇本の丸編機で編成した場合、針を使つた部分は針一本当たり縦向き糸二本、針を抜いた部分は縦向き糸〇本になり、これが針二本間隔で交互に形成されるので、一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸の本数は二本×二一〇÷八二(cm)(全周)×二・五四(インチに換算)=一三本となるから、中井博が編成した前記玉葱袋の本数も一三本とみるのが相当である(計算の方式等に違いはあつても、右縦向き糸の本数が一三本となる点では、当事者の主張は一致している)。そうすると、前述のように本件証明書添付の拡大写真において縦向き糸の本数が一二本であるということは、右写真の拡大率が一・〇八倍程度であることを意味しているというべきであり、このことを前提に横向き糸の本数を計算すると、一インチ×一インチの単位面積内における横向き糸の本数は、一一本×一・〇八=一一・八八本となる。原告は、仮に本件証明書添付のものが一・〇八倍の拡大写真であるとしても、それによると一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸の本数が一三本であるのに対し、横向き糸の本数は一一・三四本(一〇・五本×一・〇八)であつて、その差は一割五分となり、このような較差では本件考案の目的に反し、また本件考案による作用効果を奏しえない旨主張する(事実摘示第二4(一)(2)参照)。しかし、原告が本件証明書添付の拡大写真における横向き糸の本数であると主張する本数が右写真上に一般的にみられるものではないのみならず、先に認定した縦向き糸一三本、横向き糸一一・八八本という本数も平均的な数値であつて、袋の編地がすべて均一とならないことは、前掲甲第二号証に、本件考案の実施例1の場合幅出し仕上げすると縦横の伸度を平均化できるが編目の均一を乱し、柄崩れを生じると共に最初の柄の癖が残る(第四欄第一四行ないし第一七行)と記載されていることからも明らかであり、また袋のどの部分の編地を選択して計測するかによつて本数に若干の差が出ることは否めないところであり、このことは縦向き糸と横向き糸の本数を対比する場合に斟酌すべきことがらであるといわなければならない。
以上によれば、中井博が編成した本件証明書に記載された玉葱袋の一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸の本数は一三本、横向き糸の本数は一二本弱程度であつて、縦向き糸の本数と横向き糸の本数の差は一割以内のものとみるのが相当である。このことは、前掲乙第三号証及び成立に争いのない乙第四号証、同第五ないし第一四号証の各一ないし七、同第一五号証、同第一六号証の一ないし七、同第一七号証の一ないし一〇によれば、中井博は、ポリエチレンモノフイラメント糸を二:二の針抜組織で編成した玉葱袋において数コース毎に地色とは違つた色糸を編み込む意匠の創作及び考案をし、これら意匠一〇件、実用新案一件につき登録を受ける権利を東洋棉花株式会社に譲渡し、同社は本件考案の登録出願前である昭和四〇年三月特許庁にこれらの登録出願をしたこと、意匠登録出願は、当該意匠が意匠法第三条第二項の規定に該当するとの理由により、実用新案登録出願は、当該考案が実用新案法第三条第二項の規定に該当するとの理由により、いずれも拒絶査定を受けたが、そのうち右一〇件の意匠出願の願書に添付された見本片の一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数は同数であるか、差があつてもその差は一割以内であることが認められる事実によつて十分に裏付けることができる。
そして、単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数の差が一割以内であれば、各本数が等しい(同数)のものにきわめて近似し、玉葱を袋内に充填した場合縦に向いた糸と横に向いた糸にほぼ平均に力が加わることになるから、袋が一方的に縦に伸びたり、横に伸びたりして変形することを防止できるものと認められるのみならず、前掲甲第二号証によれば、本件実用新案公報の考案の詳細な説明には、「本考案者は、ポリエチレンモノフイラメント糸本来の性質である剛性と弾性を利用し、メリヤス粗織で縦横に向いている糸の本数を均り合わせることにより、伸縮性を必要最小限に止めることが可能であることを発見したのである。二〇kg入玉葱袋の場合は三八〇デニール―四〇〇デニールのポリエチレンモノフイラメント糸を通称一一寸(直径三三cm)の台丸機針数四二〇本のもので二:二の針抜き度目一cm当たり五本とし筒状に編み立てこれをロール仕上げして幅四〇cmにセツト仕上げ」(第二欄第二〇行ないし第二九行)すると記載されており、中井博が編成した玉葱袋は前述のとおり三八〇デニールのポリエチレンモノフイラメント糸を通称一一寸の台丸機(丸編機)針数四二〇本のもので二:二の針抜組織により一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸の本数一三本、横向き糸の本数一二本弱として製袋したものであつて、その度目は一cm当たり五本(縦 一三本÷二・五四=五・一一本、横 一二本÷二・五四=四・七二本)と計算され、本件考案者が本件考案の適用として示したところと実質的に同一であるから、単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数がほぼ等しいものに該当することが明らかである。
原告は、中井博が編成した玉葱袋は一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸の本数が一三本であるのに対し、横向き糸の本数が一〇本であるとし、本件証明書添付の「原寸図面」に示された玉葱袋では縦向き糸の本数が一二本になつているのは原反を幅出し機にかけて幅四四・五cmに拡げたためであり、横向き糸の本数が一一本になつているのは横方向に生地が引張られたために一〇本が一一本に増加したものである旨主張する(事実摘示第二4(一)(1)参照)。
しかしながら、本件証明書の末葉に添付されたものは「原寸図面」ではなく拡大写真であることは前述のとおりであり、また右拡大写真に示された玉葱袋が幅出し機にかけた結果として縦向き糸の本数が一二本、横向き糸の本数が一一本になつた旨の原告の主張を証するに足りる何らの証拠も存せず、幅出し機にかけたという主張自体原告の推測の域を出ないものというほかない。原告は、中井博が特許庁の証人尋問において、右拡大写真について、「生地を縦横に引張つて撮つた写真がこれです。」と証言していることをその主張の根拠としているが(事実摘示第二4(一)(1)(2)参照)、四四・五cmの幅出しをする場合に生地を縦横にほぼ等しい力で引張るという表現をするのは不自然であり、むしろ、前掲乙第三号証によれば、右証言の前後の証言内容等からみて、右証言は写真撮影をするために縦横ほぼ等しい力で引張つたとの趣旨であると解するのが相当であり、帰するところ原告の前記主張は採用することができない。
したがつて、中井博が昭和三九年一二月頃から前記工場において編成した玉葱袋は、本件考案の単位面積内における縦向き糸の本数と横向き糸の本数がほぼ等しいものに該当し、右玉葱袋は本件考案のその余の構成要件を悉く充足するものであることは前述のとおりであるから、本件考案は、その登録出願前日本国内において公然実施されていた考案というべきである。
(二) 前記(一)で認定説示した事実及び前掲甲第三号証、乙第三号証、同第四号証、同第五ないし第一四号証の各一ないし七、同第一五号証、同第一六号証の一ないし七、同第一七号証の一ないし一〇によれば、中井博は、昭和三六年から昭和五一年頃まで同人の経営する工場において通称一一寸、針数四二〇本の丸編機を使用して、野菜袋、玉葱袋等を編成し、これを販売していたものであり、昭和三九年一二月からはポリエチレンモノフイラメント糸を材料として右丸編機で二:二の針抜組織により本件証明書記載の網状かつ筒状の玉葱袋を編成したこと、同人は単に玉葱袋を編成販売していただけでなく、本件考案の登録出願前に、従来の玉葱袋が赤一色であつて品質等の識別が困難であつた点の改善を目的として、異色糸を部分的に同組織にて編み込むことにより、その等級、産地等を区別することができる野菜等の収納袋に関する意匠の創作及び考案をしており、この意匠及び考案に関し登録を受ける権利を東洋棉花株式会社に譲渡し、同会社において本件考案の登録出願前である昭和四〇年三月特許庁にこれらの登録出願をし、右出願は拒絶査定によりいずれも登録に至らなかつたが、意匠出願の願書に添付された見本片の一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数は同数であるか、差があつてもその差は一割以内であり、要するに、中井博は本件考案の登録出願前から一般的に玉葱袋の編地の縦向き糸の本数と横向き糸の本数とを等しくする技術、特定的にいえば本件考案の技術的思想を十分了知していたものと認められる。
原告は、中井博が本件考案の技術的思想を十分了知していなかつた理由として同人の特許庁における証言を援用しており(事実摘示第二4(一)(1)(J)参照)、前掲乙第三号証によれば、中井博は特許庁の証人尋問において、請求人、同参加人代理人の「一インチの平方メートルの縦糸と横糸の本数はどういうことになるのですか。」との問いに対し、「現物は針を抜いておりますので多少横糸の方が少のうございますが、全部針がうわつた時点において読みますと縦も横も一インチ間に入る本数はほぼ等しいのでございます。」と証言し、「証人は一つのウエールで縦糸は何本と考えているのですか。」との問に対し、「縦糸はループ一つが一本です。」と証言し、更に「針の抜いていない部分は何本として読むのですか。」との問いに対し、「二本として読むわけです。」と証言していることが認められる。中井博の右証言に従えば、縦糸の本数はループの縦方向の連なりの数であると解されるから、前掲甲第三号証により認められる本件証明書中の「私が編立てた玉葱袋用の生地は……添附の拡大写真の通りの縦縞模様の編目であり、縦に向いた糸と横に向いた糸の本数がほぼ等しくなつていました。」という表現と一致しないことは審決が指摘するとおりである。
しかしながら、本件証明書中の「縦に向いた糸」、「横に向いた糸」という用語は通常用いられる用語ではなく、本件考案の登録出願時に原告が初めて使用した用語であることは原告自ら認めるところである。ところが、成立に争いのない乙第一八ないし第二〇号証によれば、メリヤス(ニツト)編の編地については、縦方向のループの連なりをウエール、横方向のループ列をコースと呼ぶのが通常であることが認められ、これによれば、中井博の前記証言は、通常の呼称に則つてウエール一個を縦糸一本と数え、コース一個を横糸一本と数えているものと理解されるのに対し、本件証明書においては、ウエール一個で二本と数える原告の用いた「縦に向いた糸」、「横に向いた糸」の用語に従つた本数の数え方をしていることが明らかであり、その数え方に誤りがあるとすることはできない。以上のように、中井博が証言と本件証明書の記載とで異なる数え方をしたのは、それぞれ首肯しうる理由に基づくものであり、異なる数え方を用いたからといつて同人が本件考案の技術的思想を了知していなかつたと推認することはできない。
原告は、審決が中井博の玉葱袋の構成を認定した部分(事実摘示第二3(二)<4>参照)それ自体において、中井博が自ら編成した玉葱袋に関する作用効果や機械の調整方法等の技術的思想を理解していなかつたことを説示しながら、他方において、同人が編地の縦向き糸と横向き糸の本数を等しくする技術を了知していたと認定したとしてこれを論難する(事実摘示第二4(二)(1)(A)参照)。しかし、原告の指摘する審決の説示部分は、単位面積内における糸の本数の数え方に関する前記通常の方法に従い、かつ針抜組織で編成した当該編地につき針抜しないで全部針を植えた状態で編成したものとして本数の対比をしたものであり、そこに中井博が原告主張の技術的思想を理解していなかつた判示が含まれているとはとうてい解せられないから、原告の主張は失当である。
そして、成立に争いのない甲第四号証(大阪高等裁判所昭和五二年(ネ)第四五九号事件における証人中井博に対する尋問調書)も、中井博が本件考案の技術的思想を了知していなかつたと推認できる証拠となるものでなく、したがつて事実摘示第二4(二)(G)(I)掲記の原告の主張は採用できず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定に関する原告その余の主張は、適確な証拠の裏付けを欠く事実に立脚し(前同(B))、先に当裁判所が認定した事実に反する事実に基づき(前同(D)(F))、あるいは原告独自の事実もしくは証拠の評価に依拠して(前同(C)(E)及び(J)のうち先に判断した部分を除く部分)議論を展開するものであり、いずれも採用することができない。
原告は、大阪高等裁判所昭和五二年(ネ)第四五九号事件について、同裁判所が本件考案はその登録出願前公知公用ではなかつたとの判断に基づいてなした判決が最高裁判所の上告棄却の判決(同裁判所昭和五五年(オ)第二八三号事件)により確定したことを理由として、右判決に基づき本件考案がその登録出願前公知公用であつたとすることはできないとした原告の主張を排斥した審決は、右判決の既判力の範囲を誤認し、又はこれを無視したもので違法であると主張する(前同(H)参照)。
しかしながら、確定判決は主文に包含するものに限り、既判力を有する(民事訴訟法第一九九条第一項)ものであつて、判決理由中の判断には、相殺の主張についての判断を除いては既判力を生じないものであるところ、成立に争いのない甲第五、第六、第九号証によれば、前記事件は、
(イ) 本件被告山本樹脂工業株式会社(前記事件の第一審原告・被控訴人)が本件原告(前記事件の第一審被告・控訴人)を相手どり、本件原告が本件考案の実用新案権に基づき本件被告山本樹脂工業株式会社に対し前記控訴審判決添付目録第一、第三、第四記載の野菜袋の製造・販売行為を差し止める権利を有しないことの確認を求める請求及び
(ロ) 本件被告大豊化学工業株式会社(前記事件の第一審原告・被控訴人)が本件原告を相手どり、前記控訴審判決添付目録第七の(一)(二)記載の玉葱袋の販売代金の支払いを求める請求
が併合審理されたものであり、本件被告大豊化学工業株式会社及びその余の本件被告ら(但し、本件被告岡崎正の場合、前記事件に関与したのはその父岡崎宗一であり、同人が昭和五四年六月一九日死亡し、本件被告岡崎正が相続したことは当事者間に争いがない。また、本件被告田村産業株式会社は前記事件に補助参加人として関与していない。)が(イ)請求につき本件被告山本樹脂工業株式会社を補助するため訴訟に参加したこと、右(イ)請求においては、右控訴審判決添付目録第一、第三、第四記載の各野菜袋が本件考案の保護範囲に属するかどうかが争点となり、また、(ロ)請求においても、本件原告が相殺の抗弁として、本件被告大豊化学工業株式会社が右判決添付目録第七の(一)記載の玉葱袋等を製造販売していることが本件考案の実用新案権を侵害したことを理由とする損害賠償請求権を自働債権とする相殺を主張したため、右玉葱袋等が本件考案の保護範囲に属するかどうかが争点となつたこと、右判決は、(イ)請求に関しては、添付目録第一記載の野菜袋のうち太さ三二〇デニールを超える糸を使用したものは本件考案の保護範囲に属するが、太さ三二〇デニール以下の糸を使用したものは該保護範囲に属さず、また、添付目録第三、第四記載の野菜袋は本件考案の保護範囲に属しないと判断し、また、(ロ)請求に関しては、添付目録第七の(一)記載の玉葱袋は本件考案の保護範囲に属するが、販売数量が証拠上明らかでない等の理由により相殺の抗弁を排斥したうえ、主文において、「控訴人は被控訴人山本樹脂工業株式会社に対し登録第一〇四九九八七号実用新案権に基いて別紙目録第一記載の野菜袋のうち太さ三二〇デニール以下の糸を使用したもの及び別紙目録第三及び第四記載の野菜袋の製造・販売行為を差止める権利を有しないことを確認する。同被控訴人のその余の請求を棄却する。控訴人の被控訴人大豊化学工業株式会社に対する控訴を棄却する。」旨判決したこと、本件被告山本樹脂工業株式会社は右判決中の敗訴部分につき最高裁判所に対し上告を申し立てたが、昭和五六年四月三日上告棄却の判決の言渡があり、これにより前記控訴審判決は確定したことが認められる。以上の事実関係によれば、右控訴審判決の既判力は訴訟物たる差止請求権((イ)請求に関し)あるいは相殺の自働債権たる損害賠償請求権((ロ)請求に関し)の存否について生ずるにとどまり、その理由中の判断に及ぶものではないから、後行の審決は右理由中の判断に反する判断をなしえないという拘束を受けるものではない。しかも、前掲甲第六号証によれば、右判決は、争点である本件考案の保護範囲を判断するため本件考案の構成要素として単位面積当たりの縦向き糸の本数と横向き糸の本数とがほぼ等しいこと等を確定したうえ、本件考案の構成要素すべてが出願前公知公用であつた旨の被控訴人らの主張に対し、「証拠上、本件実用新案の出願時前に本邦においてポリエチレンモノフイラメント糸で編んだ野菜袋が広く製造販売されていたことは認められるものの、右袋が単位面積内の縦向き糸の本数と横向き糸の本数がほぼ等しいものであつたということはできないので、右主張は採用しない。すなわち、被控訴人らはメリヤス平編では単位面積内の縦向き糸の本数と横向き糸の本数が当然等しくなるものと主張し、当審証人中井博の証言にはこれに副うものがあるが、右証言はにわかに措信し難」く、かえつて、別の証拠によれば、横向き糸の本数は台丸機のカムの度目調整によつて決まり、縦向き糸の本数とは当然に等しくならないこと及び本件考案の登録出願時以後にあつても縦向き糸の本数と横向き糸の本数とにかなり差があるものが広く製造販売されていたことが認められると認定判断したものである。すなわち、右判決は、中井博が前記認定の玉葱袋を編成し販売したことによつて本件考案がその登録出願前に日本国内において公然実施された考案に該当するかどうか、あるいは中井博が玉葱袋の編地に関する技術を了知していたかどうかについては、当事者から主張がなかつたため、これを判断したものでなく、メリヤス平編では縦向き糸と横向き糸の本数が当然に等しくなるから野菜袋の右糸の本数もほぼ等しくなるとの被控訴人らの主張に対し、右糸の本数が必ずしも等しいとは限らず、等しくない場合も多いので、被控訴人らの主張は採用し難いと判示したにすぎないことが明らかである。したがつて、審決が原告の前記主張を排斥したことに何ら違法の点はない。
以上の次第であるから、中井博が本件考案の登録出願前玉葱袋の編地の縦向き糸の本数と横向き糸の本数を等しくする技術を十分了知していた旨の審決の認定は正当として是認することができる。
(三) 以上のとおりであつて、本件考案は、その登録出願前日本国内において公然実施されていた考案というべきであるから、本件考案を実用新案法第三条第一項第二号に掲げる考案に該当するとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
太さ四〇〇デニール中心のポリエチレンモノフイラメント糸を使用し通称一一寸(直径三三cm)中心針数四二〇本程度のメリヤス丸編で単位面積内における縦向き糸と横向き糸の本数がほぼ等しくなるように針抜組織により網状かつ筒状に編成して袋体を形成したことを特徴とする玉葱袋。(別紙図面参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
<省略>